僕らの北沢話  24

その日・・・スタジオに入った修子たちは驚く事実を知ることになった

なんと・・・彼女たちがまだ何もしていない段階ですでに数曲の修子のオリジナルの「オケ」が出来上がっていたということだ それも修子ではなくマネージャーの J  が替わりにマイクの前に立ち7c1b1f6417bb265236f5175e9f0095fe143a55b3オケ用の仮歌を入れたというのだ そのすべてを修子はその日来るまでまったく知らされていなかった

修子は怒った それは当然だ 歌謡曲とかポップの世界は知らないが、シンガーソングライターの世界でその当人のオリジナルソングをまったくの他人が替わりに仮歌とはいえ歌うなんて考えられなかった そもそも修子と J では音域も声質もノリもまったく違う 音楽学校出の彼女にブルースが歌えるわけもなかった 致命的なことは「ブレスポイント」の違いだ シンガーはそれぞれの息継ぎをするポイントがまったく違う それによってその歌を聴きながら演奏するミュージシャンたちも当然そのブレスに合わせて演奏することになるので、他の人がそれにあわせて歌うことは無謀もいいことなのだ

そんなことも知らずに・・・いや、仮に知っていたとしたらもっと悪質だ 勝手にそういう風にレコーディングを進めようとするMという男・・・「ほら、やっぱり馬脚を現したな」 僕はそう思った

前から彼に感じていた「うさん臭さ」の臭いの元が姿を現しはじめた

修子はとにかく怒って断固として抗議した 「こんなオケじゃ歌えない そもそも私に無断で何でこんなもの作るんだ 私は私のメンバーたちと一緒に録音する とにかくこのオケはやめてほしい!」

結局すったもんだして、とりあえずブルーススタイルの「ドライジンブルース」と「その気になってさ」の2曲を僕を含めた修子バンドのメンバーで録り直す・・・そういうことに決まった61Yn7nhnBCL__AA1500_

あらためてMが作らせたその「オケ」を聴いてみた ひどいものだった そもそも修子のオリジナルの「ドライジンブルース」はかなりジャズ寄りのスタイルで作られている そして「その気になってさ」はフォークブルースというか戦前のデルタブルースのようなテイストがある ところがオケになったその2曲はどちらも中途半端にロックっぽくリードギターはあきらかにロックか歌謡曲のノリでやたらと無意味にねちっこいリードパターンを弾いていた

「ダサいね」「ひどいね!」 僕らは呆れた それはまるで歌謡曲のバックのようなサウンドに仕上がっていた

東京の品川生まれのばりばりの江戸っ子で現代詩人でもあり「能」や「歌舞伎」などあらゆる芸事に精通している何より「粋」を大事にする仲田修子のオリジナルソングのバックとしてそのサウンドはあまりにも「場違い」で「無粋」で「見当外れ」もいいところだった

さて、どうしようか 僕らで録音し直すとしてギターとベースはいるがドラムがいない(その時はまだdrum_set瀬山研二は出現していなかった) さてどうするか・・・ドラマー探しから作業がはじまった

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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