仲田修子話 45

「赤いブックカバーの本を持ってる」というのが目印だったその女性漫画家はすぐに見つかった 初対面だったが二人はすぐに意気投合して友達になった それからもちょくちょくその風月堂に二人で通った というのも修子には全く関心が無かったのだが、その漫画家の友人が「フーテンをやってみたい」というので「じゃあそういう格好を真似てみようか」ということで見よう見まねで修子たちもフーテンファッションになっていった フーテンのファッションというのは細身のブラックジーンズに真夏でも長袖のセーター、足元は靴かサンダル それに大きな麻の米袋に持ち物を何でも入れてそれを二つ折りにして小脇に抱える・・・そんなところだった

一般にはベルボトムのパンツに派手な模様のシャツを着て・・・というようなルックスをイメージされることが多いようだが、それはもう少しあとで出てきた「ヒッピー」とか「サイケデリックファッション」といった連中のことを指している

あと男性の場合は髪の毛が長ければ長いほど尊敬されるというルールがあったようで、彼らのなかで「キリスト」と呼ばれてた男性はひときわ髪が長く周りから崇拝されていた コーヒーをおごると喋ってもらえるというので修子たちも彼にコーヒーをおごり同じテーブルについた するとその男はやたら「とにかく神を信じなさい」とか言うだけで、はっきり言って頭もあまり良くなさそうだったので修子は「なんだ、そんなものか」と思った
そもそもその店に集まってる連中がやたら芸術家気取りで小難しい議論とかするばかりで本当に中身の薄っぺらな輩ばかりだったので修子は次第にそういう連中をバカにするようになってきた 第一その風月堂という店自体の「うちはクラシック音楽ですから」という気取った雰囲気も気に入らなかった
そしてある日、彼女はついに事件を起こす
その日は独りでその店に来ていたのだが、いきなり立ち上がり中二階と一階をつなぐ大きな螺旋階段の途中から大声で「ウーッ、マンボ!」と叫び「チャーッチャ・チャチャチャチャッ・チャチャチャチャ・  ウーッ!」・・・とその店には一番ふさわしくなさそうな当時流行っていたラテンで「ペレス・プラド楽団」の「マンボNo.5」という曲をスキャットしながら踊りながら降りていった・・・ するとたちまち店の従業員に取り囲まれて「やめてください!「出てってください!」と追い出されてしまった

ところがそれで諦める修子ではなかった そのあと一週間ほどは風月堂のすぐ隣にあった「田園」という喫茶店でほとぼりを冷ましそしてまた風月堂に行き・・・また同じことをやったのである

またもや従業員に捕まり 「本当に!もう二度と来ないで下さい!」・・・と・・・ついに永久に出入り禁止となったのだ

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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