仲田修子話 65

「スズキくん」とは何者なのか・・・ここで補足説明をしなければいけない 実は修子は虎ノ門病院で働いていた頃から文学に興味があって小説の同人雑誌に自分の書いた小説を投稿したりしていた ジャンルは「プロレタリア小説」と「SF小説」 そのいずれもその世界の中でなかなか高評価をもらっていたそうだ

さて、そのスズキくんがある日買ったばかりのギターを持って修子のアパートにやってきたのだ そして「これあげるよ」とそのギターを修子に渡した

「これどうやって弾くの?」と修子が訊ねるとスズキくんはその場でEm/Am/Cなどのコードを4つくらい教えてくれてコードネームがついた歌集も一冊置いて帰っていった

ちょうど仕事を辞めてヒマだった修子は何気なくそのギターを抱え練習をし始めた

それ以前にはたまに「歌声喫茶」などで歌うことがあったくらいだった修子・・・

音楽にはまったく知識も興味も無かった彼女が、子供のときに吹いたハーモニカ以来、本当に久しぶりに音楽というものに接したのだが・・・まさかそれが彼女のそれからの人生をがらっと変えるとは修子もその時は思ってはいなかった

相変わらず仕事には就かなかった修子は部屋でギターを弾きながら「ドナドナ」などの歌を歌っていた
すると、それから一ヶ月くらいしたある日・・・またあのスズキくんがやってきて修子にこう言った
「あのさあ、東中野にオープンマイクで誰でも歌えるお店があるんだけど一緒に行かない?」と誘われたので「うん」と答えてギターを持って修子は出かけた

店に着くと色々な人が代わる代わる出てきて歌っていた スズキくんが「修子ちゃんも歌えば」というので修子もギターを持って前に出て歌った

不思議なことに人前で歌うなんてことは初めてだったのに、あの天井桟敷では足が震えてたまらなかった修子なのに・・・このときは全くそういうこともなく動揺もせず落ち着いて歌えた

すると2~3曲歌ったところでその店の経営者が修子のところにやってきた そして驚くことにこう言った

「君ね、お金払うから毎週土曜日ここへ来て歌ってくれない?」

そう、この瞬間・・・仲田修子はプロのシンガーそしてミュージシャンとしての人生の第一歩を踏み出したのだ

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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