僕の八ヶ岳話 84

その年の夏から僕の蕎麦屋修行は始まった 週に2回くらい、その店に行って手伝いをしながらおやじさんから直接蕎麦打ちの指導を受けるという形だ

おやじさんの蕎麦打ちの手法は厳密に言うと完全な「手打ち」ではなかった どの部分が違うかというと、団子状にしたそば生地を伸すとき完全な手打ちでは麺棒を使って文字通り手で打ってゆくのだが(この写真は私が実際に蕎麦生地を伸しているところです)、彼のやりかたはここで「延麵機」というものを使う

これはどういうものかというと、団子状にした生地をローラーで挟み込んで薄く延ばしてゆく機械で、割りと一般的に知られてる「パスタマシン」をものすごく大掛かりにしたもので、製麺屋やラーメン店などでもこれを使ってるところが多い

おやじさんの所にあったのは多分昭和初期に作られたんじゃないかというような木製のすべて手作業でやるかなりレトロなやつだった

木製の木枠の中にトタンが張られていて、麵を伸すローラーは厚みを調整しながら大きな歯車の先に付いてる取っ手を掴んでがらがらと回す仕組みだった だからまあ「手打ち」と言っても差し障りがないようなものではあった


その機械にもちょっと驚いたが僕が一番驚いたのはおやじさんが蕎麦生地を作るときだった 普通手打ちの蕎麦屋ではこのこねる前の「水回し」という作業をやるときには「木鉢」というものを使う 高いものはトチなどの木材をくりぬいて鉢の形にしさらに漆を塗るというもので、安いのでは樹脂製のものがある

ところが、おやじさんが使っていたのはプラスチックのたらい・・・そう、洗濯に使うあれだ そこに袋から掬い上げたそば粉を無造作に入れる そしてさらに驚くことが起きた 通常蕎麦打ちには水を使う それに卵を混ぜるというやりかたもあるのだけど、彼はいきなり「おろし金」を取り出すと傍らにあった長芋を掴むと摩りおろし始めた それも皮も剥かずに・・・・

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