僕らの北沢話  26

録音はまず「ドライジンブルース」から始まった 今でも仲田修子の代表的なブルース曲としてライブではよく演奏されている曲だ この曲は修子のボーカル、僕がエレキギターでリード担当、有海がアコースティックギターでサイド、増田のベース、原田のドラムという編成にした

僕のギターは当時持っていたEPIPHONE の「RIVIERA」というセミアコ オーティス・ラッシュがOLYMPUS DIGITAL CAMERA大好きだったので彼が愛用していたこのワインレッドのギターを購入 テイルピースが2つに分かれていて低音部と高音部の長さが違うという奇妙なスタイルはEPIPHONEの特徴 これにフラットワウンドの極太の弦・・・いわゆるジャズギター向けの弦だが、これを張っていたので低音部が「ボコン」と鳴り高音部も「ペシャン」とほとんど伸びない音だった ただ、これで弾くとまるでT・ボーン・ウォーカーのようなギターサウンドになっていた それでフレージングもTボーンをパクったスタイルで・・・かなり40年代っぽいサウンドになった そこに原田ドラムがいい感じでからむ 修子も気持ちよくスィングしながら歌う

♪今夜も 私は 行きつけの酒場

洒落たつもりで ドライジン ドライジン 飲んで

ジュークボックスに 百円玉 投げる♪

すごくいい雰囲気だ 録音はもう「テイク1」でばっちり決まった

そして2曲目の「その気になってさ」 この曲では有海がアコギでスライド、僕もアコギに持ち替えてimg_0サイド、増田ベース、原田ドラムだ

「キュイーン、キュキューン~」と有海のMARTINが歯切れのいい音で緊張感のあるスライドソロを決める 僕はひたすらコードストロークのみでそれに合わせる 原田ドラムがまたここに絶妙なバックビートを叩き出す 「バックビート」とは4拍のうちの2拍と4拍目にアクセントを入れる叩き方で、ブルースではこの部分に微妙な「溜め」を作ってビートの重量感を出すのだが彼のドラミングはその溜め具合が絶妙で、本当にシカゴブルースをやってるみたいな気分になった

ここでは修子もダウンホーム的な感じを出しながら重々しさを入れつつ歌う

♪その気になってさ 風の吹く街走り続けた

私毎日 騒いでるのさ この広い街の中で

私ひとりが その気になってさ♪

この曲もたしか「テイク1」でオーケイ! 2曲の録音はあっという間に実にスムーズにそして素晴らしい出来上がりで終了した

ミキシングルームであらためてプレイバックを聴いてみた 2曲ともとても瑞々しくハートフルでそしてまるでアメリカのシカゴのスタジオで録音されたような「本物の匂い」がぷんぷんしていた

前にMが作ったいい加減なオケとはもう比べようがなかった 全員が深い満足感に満たされていた

この素晴らしいグルーブを作り出してくれた当の原田氏は終わるとさくさくと自分の持ってきたものをいかにも手馴れた様子で片付け、そしてまるで何事もなかったような顔で、でもなんだか満足そうに「じゃあ」と言ってスタジオを後にした

そして後日、僕らは知らされた あの人は「原田寛治」と言って日本のジャズドラムでは「ジョージ川 sim口」などと並びもうベテランの大御所のドラマーで、日野元彦などにもドラムを教え、渡辺貞夫など匆々たるジャズマンたちと一緒に日本のジャズの歴史を創ってきた人だったのだ

僕らは知らずにとんでもない人にかなり厚かましいお願いをしてしまったのかも知れない・・・でも、あのセッションは本当に今でもはっきりと覚えてるくらい素晴らしい時間を僕らに与えてくれた

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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