仲田修子話 137

修子はまたハコに戻った それまでのジーンズとワークシャツという衣装は封印してオリジナル曲も一斉歌わず、笑みを浮かべながら好きでもない曲を歌う・・・もう長年やってきた面白くも何ともない仕事・・・

ただ、以前とは違うところがあった 彼女は「独り」ではなかった しんどいハコの仕事を終えて家に帰ると、暖かい風呂と料理が待っていた 自分の話を熱心に聞いてくれる仲間も居た
コーヒーを飲みながら、煙草を吸いながら、朝まで語り明かすというのは今までと少しも変わらなかった

いや、変わったこともあった それは皆でこの先のビジョンや計画について語り合うこと・・・いくら話しても話題は尽きなかった 「モラトリアム」は手離したが、修子の心に空いていた穴が少しだけ小さくなったようが気がした

皆が「資金集めプロジェクト」に取り掛かってそろそろ10ヵ月が経った 修子はそれまでに皆が稼いでプールできた合計を調べてみた その結果、小さな店なら何とか建てられるくらいの資金になっていることがわかった

「皆よく頑張ったね! よし、このお金を元手に店を作る準備を始めよう 」
それからいよいよ店作りの作業が始まった

まずは店舗探し 集まったとはいえ資金はそれほど多くは無かった 銀行に融資を頼む力も道もまだ持っては居なかった

なるべく安くていい物件を・・ただし、これには修子から付けられた条件が2つあった まず駅からなるべく近いこと・・・最大でも徒歩10分以内、近ければ近いほど良し

あと出来れば地下の物件を・・・ということだった

この要素を満たしなおかつ安い物件・・・という条件はなかなか難しかった 物件探しは修子以外のメンバーが仕事の空いてる時間に、必ず二人組みで行った 一人だと判断を誤る恐れがあるのを避けるためだった 修子は「作戦本部長」を担った

探し始めて何日も経った・・・が、中々いい物件には行き当たらなかった 最初は住んでいた東北沢のある小田急線沿線で探したが、これというものが出てこなかった やはりこの限られた資金では無理があったか・・・皆に少し焦りが出てきた

そんなある日、方角を変えてその日は中央線沿線の物件を探しに行ってた矢島&有海組が夕方になって戻ってきた いつもなら疲れきってちょっと投げやりな感じになっていた二人の様子がその日は違っていた 目をギラギラ輝かせるような表情で矢島が言った

「高円寺に面白い物件が有ったよ!駅から近くて地下で安くて、ただ・・・」

少し間を置いて彼はこう言った

「変な建物なんだよ」

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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