僕の八ヶ岳話 7


浦安に住むようになって2度目の夏を迎える頃、僕らの生活もかなり安定してきた 生まれて初めて経験した朝の地下鉄東西線の地獄のような通勤ラッシュにも慣れた 浦安の駅前に馴染みの飲み屋も何件かできた

そんなある日、おやじから久しぶりに電話がかかってきた

「元気にしてるか? 実はな、清里についに家を建てたんだ すごくいいぞ! 良かったら今度の夏遊びに来ないか?」

その電話を受けて僕らは相談した そういえばかみさんと両親はまだ顔を合わせたことが無い 彼女を彼らに一度会わせなきゃ・・・という事情も抱えていた 八ヶ岳清里・・・おやじの話では「今清里はスゴいぞ! 人が沢山来るんだ」ということだったが、あの悪路と一面の荒野しか記憶に無い僕にはとても信じられなかった

まあとにかくそれも確かめたかったし、夏の海辺のむしむしした気候にもちょっと辟易していた僕らはおやじの誘いを受けることにした

3日間の休みを会社から許可してもらい、僕らは八ヶ岳を目指した 中央線の特急「あずさ」で新宿から八ヶ岳の麓にある「小淵沢」をまず目指す 甲府を過ぎると景色が一気に開けてくる 進行方向左手には雄大な南アルプスの山々が次第に迫ってくる 右手の方はしばらくはのどかに広がる丘陵が続いていたがやがて大きな山が姿を現した

「あっ、八ヶ岳だ!」「本当だ!」

・・・ところが実はそれは八ヶ岳では無かった 八ヶ岳の隣にある「茅ケ岳」だったのだが、形が八ヶ岳に似ているので通称「ニセヤツ」という不名誉な名前まで付けられていた この山も決して見劣りしないのだが、矢張り「本家」には敵わなかった
そしてそのニセヤツの向こうに今度は本物の八ヶ岳が姿を現した 茅ケ岳の倍くらいのスケールで富士山のように広大でなだらかな裾野を持ち、いくつもの峰がその上にそびえる なんだか神々しい姿の本当に美しい山だった
「来たねえ」「いいねえ」
僕らはそう言葉を交わした その時はまったく観光客モードだった

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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