清里駅から外に出て目の前に広がる駅前の光景を見て僕は自分の目を疑った そこには想定外のものがあったからだ
「・・・原宿?」
さっきまで広大な自然の中を走り抜けてきた列車が僕らを降ろしたのは標高1200mの確かに山の中腹だったはずだ ところが、今僕らが眼にしているのはまるで原宿かどこかのようなやたらとメルヘンチックでキッチュな建物、そしてその中を歩き回るおよそ山とは縁の無さそうな若い男女たちの姿だった
一瞬めまいに襲われたような気分になった 八ヶ岳を目指していた僕らはどこかで時空の歪みに巻き込まれて、とんでもない場所に来てしまったのかと・・・
しかし、そこは紛れも無い山の中だった その異様な光景のむこうには確かに森があり、遠くに山々の姿もあった おやじの言ってた「今の清里はすごいぞ!」というのはこれのことだったのか・・・僕はようやく事態を認識し始めた
やがて「矢島電気」のロゴが描いてあるライトバンが僕らの前に現われた おやじの運転する車で僕らはその”新しい家”に向かった 驚くことはまだまだあった まず10年くらい前に来たときの恐ろしいほどのダート道路はすっかり舗装されて奇麗で、車に乗っていても身体が烈しく揺さぶられるようなことは無かった 駅前を離れるとさすがにあの気狂いじみた光景は無くなり高原の緑がぐうっと増えてきた
しかし、その中にも僕が思ってなかったようなものが次々に現われた まずは「牧場」 元々清里界隈は戦国時代から軍事用の馬の飼育の歴史がある場所で「念馬ケ原」という地名が残っているくらいで、また戦後に開拓で入った人々が牛乳用の牛を飼育していることもあったのだが、僕らが目にしたのは明らかにそういうのではない”観光用”の牧場だった
そして、道の周囲に見える建物もなんだかヨーロッパに居るようなまったく日本の色が無いようなものが多い そんな風景に驚いてる僕らにおやじが言った
「どうだい、清里も変わっただろう!」
変わった・・・変わり過ぎだ・・・僕らはなんだか浦島太郎になったような気分で周りの風景を眺めていた
高円寺ライブハウス ペンギンハウス