仲田修子話 83

仲田修子著;ダウンタウンブルース「18」より

「あの……先生……ちょっと、」
ミツコが近寄ってきた。
「なあに?」
「お金、少し貸して頂けないでしょうか?」
「お金?いくらぐらい?」
「本当は五万円ぐらいなんですけど、二万でも三万でもいいんですけど…」
「何に使うの?そのお金」
「あの…私の先生が今度○○レコードのディレクターに会わせて下さるっておっしゃるんです」
「へえ、いいじゃない!でもそれとお金と何の関係があるの?」
「三十万いるんです、そのディレクターさんに会ってもらうために」
修子は突然激しい怒りに囚われた。
「誰がそんなこと言ってるの?」
「私の先生がそうおっしゃるんです」
相当悪質な奴だな…その「先生」とかいう奴は…修子は思った。
「あのね、私良く知らないけどね、別にディレクターに会うためにお金を払う必要なんてないと思うよ…何か変じゃない?その話って」
「でも、先生がそうおっしゃるんです。それに…デビューするためにはプロデューサーとか、そういう人と寝ないといけないんです」
「あなたの先生がそう言ったの?」
「はい」
「で、あなたはそれを信じてるわけ?つまりその、プロデューサーとか何とかと、そういう事をするつもりなの?」
「今はわかりません、その時になったら考えます…あの…お金貸してもらえないでしょうか?必ず返しますから…」
修子はまじまじとミツコの顔を見た、決して美しいとはいえない彼女の顔は、何かに執り憑かれたように異様に真剣だった。
「私は貸せないよ、その話、信じられないもん、それに…」
あなたは騙されているのだ。と言いたかった、けれど、彼女の「夢」を壊す勇気は無かった。
「私は貸すからね!」
雪乃さんが言った、そして雪乃派の全員が同じような事を言い、「やっぱり芸能界に入るんならその位の事はあるだろう」というような事を口々に言った。

修子はイライラした、ここの女の人達はどうしてこんなに物わかりが悪いのだろう…カウンターに腰掛けてピアノの指づかいの練習を始めた、ありもしないピアノを頭の中に描きながら、いつも暇な時はそうしているように…けれど、その日はなぜか心乱れて全然集中できなかった。

挿入曲;「いきなり降り出した雨の中で」2002,7,10 大田区民プラザ大ホールコンサートより

筆者脚注; この話は仲田修子筆の自伝小説「ダウンタウンブルース」をそのまま使わせてもらってます 書かれていることはすべて本当にあったことです 人称を「私」から「修子」または「彼女」に書き換える以外は一切加筆していません

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