僕の八ヶ岳話 14

「だ、だ、だからさ・・・ちょっと考えてみてよ あの雄大な山の景色、深い緑の森、涼しくて爽やかな空気・・・そしてあの”水”だよ!」
「何?水がどうしたの」
「オレさ、清里の駅でトイレに入っただろ あのときあの土地の水があまりにも素晴らしいんでショックを受けたんだよ! だってここの水・・・ヒドいだろ!」
かみさんはちょっと気勢をそがれた感じになって黙り込んだ
「人間はさ、ああいう環境のところで暮らすべきだと思うんだよな これから子供が生まれたとしても豊かな自然といい空気と水に恵まれた土地で育てたいんだよね・・・」

子育てについては実はそれまで全く考えていなかったのだが、そのとき咄嗟に思いついたのでそう話した しかし、生まれてから都心に比べればまだ自然が少しはあったものの、やはり都会である吉祥寺で育ってその後もずうっと東京で暮らしてきた僕と、目の前に海があり近くに山もあり、元々自然豊かな土地で生まれて高校までその環境の中で暮らしていた彼女とでは「自然」というものに対する考えに大きな差があることに、その時僕は気付かされた かみさんにとってみれば「ただの田舎の・・・それも”ど田舎”の不便な山での暮らし」という思いしか無かった

その日は結局”合意”を得ることは出来なかった しかし、次の日から僕はあらゆるレトリックを使って彼女を説得・・・というより洗脳し続けた

そもそも”言い出したら絶対に曲げない 何かにこだわったら徹底的にこだわり続ける”という僕の性分をかみさんは知っている 「しょうがないか・・・」という反応になりかかってきたが、ここでかみさんが一打を放った
「でも仕事はどうするのよ!? あんな山の中で仕事なんてなかなか見つからないんじゃないの? ガードマンなんてそもそも必要が全然無い土地じゃない」

一瞬僕も「うっ」っと詰まったが、またも頭に浮かんだ出まかせの話をした
「清里の街を見たろ! あれだけの人がやってきてあれだけ繁盛してるんだよ 絶対に何か面白い仕事があるはずだよ」
当ては・・・全然無かった とりあえずかみさんを説得するために思いついたのだが・・・

高円寺ライブハウス ペンギンハウス出演するには?

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする