僕の八ヶ岳話 44

僕ら夫婦が八ヶ岳で暮らし初めて最初の冬・・・気温は毎日刻むようにどんどん下がってきた 朝、目を覚まし空気を吸い込む・・・肺の中にとてつもない冷気が入ってくる 仕事に行かなければならない 朝食を済ませ車のエンジンをかけに外に出る 足元には高さ10センチくらいの霜柱が出来ていて、一歩歩くごとに「バリッ・バリッ」と音がする 多分今朝はマイナス10度を下回ってるのだろう・・・それくらいになると顔に触れる空気は寒いではなく「痛い」と感じる

「キャリーちゃん」のドアを開けキーボックスにキーを差しこみ、「チョーク」を引っ張っておいてキーを回す 今の人は「チョーク」なんて知らないと思うが、昔の車やバイクのエンジンにはこのチョークが付いていた これはエンジンを始動させるときにエンジンへ送る空気を少なくするバルブのことで文字通りチョーク(絞る)するのだ
しかし、エンジンはなかなかかからない 後になって知ったのだが、車には最初から「寒冷地仕様」とそうでない(普通の)「仕様」があって、僕のキャリーちゃんは東京で手に入れたので、当然寒冷地仕様ではなかった 2サイクルのエンジンはそれでなくても扱いが難しかった 何度もキーを回しても「キュキュキュキュッ」という音がするだけでなかなかエンジンに点火しれくれない マイナス10度の冷気に身体を晒しながらのこの作業はなかなか辛かった

何度かやってるうちにやっと「バルルルルン」とエンジンがかかった マフラーからは真っ白い煙が吹きだす これはエンジンのトラブルではなくて、2サイクルはガソリンとオイルを一緒に燃やすので、エンジンが充分に暖まらないうちは白煙を出すのだ

エンジンがかかった やれやれ・・・と屋内に戻ると、そのうち動いてたエンジンが止まってしまう 「おや?」と思ってまた車に戻り再びかける・・・しばらくするとまた止まってしまう・・・これはやはり高冷地仕様になってない車ゆえのことで・いわゆる「アイドリング」のときのエンジンに送り込まれるガソリンの量が少なくてエンジンが暖まらないのだ
こういう時はどうすればいいか・・・運転席に乗り込みアクセルをふかす・・・するとようやくエンジンの熱が外気の冷えに打ち勝ってエンジンが順調に回り始める
しかし、これを毎日10分くらいやってなければならない おおいに時間のムダだ そこで僕は考えた 庭にある子供の頭大の石を拾ってアクセルペダルの上に乗せる・・・するとアクセルが踏まれっぱなしの状態になり「暖気」がうまくいく これで家の中に戻り暖まりながら朝のコーヒーを飲むことができる 窓から眺めるキャリーちゃんは「ブブブブブ」という音を立てながら白い煙を吐き出し続けている 霜で真っ白になっていたフロントガラスも暖房が効いてきて次第に溶けて水滴になる ようやくこれで出勤ができる・・・

これが毎朝の恒例行事だった

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