僕の八ヶ岳話 86

足で生地を踏み始めて10分くらい経っただろうか・・・おやじさんは被せてたカバーをまくり袋に入れた生地を確かめた

「うん、よし!」
それはもうすっかり打たれたそば生地に仕上がっていた その塊を持つと礼の「延麵機」のところに移動する その生地におやじさんは真っ白な粉をふりかけた それは「打ち粉」と呼ばれるやはりそば粉だった それを機械のローラー部分に持っていくと大きな手回しの歯車をぐるぐると回し始めた 生地はそのローラーに吸い込まれるように入ってゆく その先は細長い平らなコンベアみたいになっていて圧縮されて板状になった生地がそこに出てくる 厚みはまだ2~3センチほどある 一気に薄くするのではなく何度かに分けて少しずつ薄くしてゆくのがコツなんだそうだ 2回、3回・・・同じような作業を少しずつ厚みを薄くしながら繰り返す 最終的に生地は厚さ1ミリほどの布状になった

それを畳むとおやじさんは今度は大きなまな板と包丁を取り出した そば切り用の包丁は独特な形をしている 写真は僕が使ってたそば切り包丁で刃渡りは1尺・・・約30センチ・・・これでもまだ小ぶりなほうだ 刃が手元の握りの下まで伸びていてかなり重い この重みと刃の切れ味が喉ごしのいい蕎麦を生み出すのだ

おやじさんの包丁(これは彼の遺品として僕が受け継ぎ今でも持っている)はそれよりもう少し小さかったが、まな板(蕎麦屋の業界では「切り板」と呼ぶ)に何枚かに重ねて置いたそば生地にこの包丁を当て切ってゆく・・・その手さばきは本当に美しいくらいに洗練されていて早かった 早いのには理由がある もたもたしているとそば生地はどんどん乾燥してしまうので、これは時間との勝負なのだ

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