さて、ここから僕の果てのない修行が始まった。最初のうちはそれこそ”針のむしろ”だった。「いい音」を作るにはまずそれをコントロールするミキサーを使いこなせなければなかった。当時のペンギンハウスはまだアナログのMidasのVENICEというミキサー卓を使っていた。今はSOUNDCRAFTのデジタル卓になって、この卓の一番便利なところは一度設定した内容をすべてメモリーで記憶出来て、しかもそれはボタンを1つ押すだけで簡単に再現出来る・・・まあアナログにはアナログならではの暖かみとか良いところも一杯あったのだが、やはりその操作の煩雑さといちいち覚えておかなければならない面倒さがあった。それで、一度やったオペレートデータはなるべくグラフのような用紙に書き込んで保存する必要があった。そしてそれは次第に膨大な資料となっていった。
とにかくその当初から僕が目指したのはその演奏者に”寄り添う”ということだった。そのボーカルの声質、楽器の音、バンドが目指してるサウンドなどなど・・・全てのことに注意を払い、その演者やバンドが本来的に持っているものをなるべくそのまま再現し、さらにそこにプラスアルファの魅力を加えるためのちょっとした工夫を考え続けた。そして理解した。PAの最大の役割はその演奏者のバックミュージシャンであり、バンドのメンバーの一員であるべきだと・・・つまり寄り添うということはそういうことなのだ。
そして、それをするためのノウハウをいかに多く持ち合わせしかもどこでどの技を使うかのセンスも磨いて行かなければならない。さらには歌唄いはやはり生身の人間なので、その時の体調やメンタルでボーカルの声質やコンディションがかなり変わる。それを関知してたとえば「今日は喉の調子があまり良くないな」と感じたら、それなりのやりかたで”お手当て”をすることも大事なことだとも学んだ。