仲田修子;ダウンタウンブルース  5

オーディションの日、私は口紅を塗り、アイシャドウをつけた。化粧はそれだけだった。そして念のScan0004ため、とんでもないミニ、を履いた、当時の女の子にしては背の高い私は、顔は十人並、そして脚は抜群という評価がわかっていたからだ。
オーディションは行われた…。男の人三人と女の人一人が聞いてくれた。私はジャズスタンダードの「サマータイム」から歌い出した…次にシャンソンの「ろくでなし」、その後二曲歌った。
四曲目を歌い終ると、その店のオーナーらしい五十代か六十代か、とにかくすごく年配の人が、「よし、もういい。来月の一日から来なさい!」と言ってくれた。
そのあとマネージャーという人と話し合いが始まった。
「君ね…初めてらしいから、ギャラは月十二万以上出せないけど、いいだろう?」
一ケ月十二万!私は夢を見ているのじゃないか?
その時本当にそう思った。しかし顔には出さず、「最初の一ケ月間だけ、週給で戴けないでしょうか、それから、スカート履かなくてもいいでしょうか?」と恐る恐る言ってみた。Scan0021
「週給?いいけど何で?」
「最初だけでいいんです、私、今お金が無いんです」
「うーん、別にいいけどね、スカートを履きたくないっていうのは、一体何なの?」
大柄で陽気そうなマネージャーは訊ねた。
「あの、何となくヤなんです、私、歌だけでやりたいんです」
「まあ、いいけどね…、でも、あんまりキタナイ格好されちゃ困るよ。ウチは色気で売ってる店じゃないけど、一応銀座の会費制クラブなんだからね」
「はい、気を付けます。それじゃ来月からよろしく」
私はついに銀座の弾き語り、になった。

 高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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