その頃・・・ある事件が持ち上がった まあ「事件」と名付けるような大袈裟なものじゃないのだが、ぼくにとってそれは非常に大きなインパクトがあったので今もこれをあえて「釜飯事件」と呼ぶ(笑)
その日、僕は夜の食事のメニューをトリ釜飯に決めていた いつものように夕方少し前に歩いて下北沢の駅前商店街に行きなるべく安そうな食材を選んで買い物をする これが僕の日常だった
この日もスーパーや八百屋で鶏肉と野菜を買いアパートに帰り調理を始めた 鶏肉は一口大に切り人参は「いちょう切り」ゴボウは「ささがき」にして水に晒す・・・こういう料理の下ごしらえもだいぶ手馴れたものになってきていた そしてダシをとり合わせ調味料を作り具材と米を電気釜に入れスイッチを入れる・・・30分ちょっと過つと美味しく今日の夕飯が出来上がった
その時である・・・Kがやってきたのだ
Kは前の僕らのミーティングのときに「僕はこのプロジェクトには参加しません」 と言って僕らの元を去っていった男だ
ただ、その後も何となくずるずると僕らのアパートにとくに何か用事があるわけでもなくやってきていた そして、ほぼ毎回なのだが彼は決まってここで食事をしていくパターンができていた
僕は多分今日もそのつもりなんだろうな・・・と思ったので彼に「K君どうする、ご飯食べてく?」と訊いた
すると案の定彼は「はい、いただきます」・・・・というので「まあ一杯ぐらいならいいか」と思って炊き上がった釜飯を茶碗によそって彼に提供した
すると・・・彼は「美味しいです」・・・と、いつものような抑揚のない無表情な顔でそういいながらばくばくとそれをあっという間に食べると「あのう、お代わりいいですか?」と言う
仕方ないのでまたよそってやる・・・またあっという間に食べ終わると「すみません、もう一杯」
おまけにこれだけではなかったのだ よりによって何を考えたのか彼は自分の相方のギタリストHまでを電話で呼び出して「美味しい釜飯があるから今からおいでよ」と
何とHまでやってきて二人で釜飯を食うわ食うわ・・・とうとうジャーの中をカラッポにしてしまったあげく 「どーもー」・・・といつもの彼と同じようにさして感謝してるとは思えないような言い方で言うと「もう用事は済んだ」・・・とばかり、さっさと帰ってしまったのだ
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