ベーストラックが出来上がったところでまず修子のボーカルの仮歌入れの作業にかかった。これはペンギンハウスで営業が終了して完全に閉店した後の店内で行われた。
仮歌だったけど一応テストも兼ねてマイクはコンデンサを使用 それゆえ色々な機械のモーター音などが入ってしまうので冷蔵庫、製氷機、換気扇、エアコンなども電気を切った中で録音作業
「Sweethome Chicago」「Trouble in Mind」「Stormy Monday」の3曲はライブでもよくやってる曲なので問題なくスムーズに録音が進んだ
「St Louis Blues」は1~2回ライブでやっただけ、「I Almost Lost My Mind」は初めて歌う曲だったが、どちらも修子の得意なほうのジャズ系なので思いのほかスムーズに行った
厄介だったのが「Baby Please Don’t Go」と「Baby What You Want Me to Do」の2曲、前者は1回ライブでもやったことがあったが「これぞミシシッピ」というスタイルのかなり泥臭い曲、後者は初めてやる上に泥臭さもハンパじゃないのでかなりの苦戦となりそうだった。
ただ、今回のプロジェクトを通して修子のほうでも「この際ブルースの真髄の中の奥深くまで掘り下げたい」という意欲が強くあったのであえて今まで踏み入れなかった領域にまで足を入れてのレコーディングということでとにかくなんとかこれらも歌いこなすことができるように時間をかけてじっくりと練り上げてゆくということにした。
仮歌の収録が終ったところで本格的なオケの制作作業が始まった
まずドラムの録音作業 ドラムス担当は修子バンドでもずうっとバックを担当している瀬山研二だ。録音はやはり深夜ペンギンハウスが閉店してから、瀬山には事前に仮歌の入った曲の資料をCD-Rで渡しておいたが、それを聴いて彼がちゃんとそれぞれの曲についてのドラムパターンを考えてきてくれたので録音は実にスムーズに進んだ。ほとんどの曲が1~2テイクでOKとなり一晩でドラムス収録作業が終了した。
次にベースの録音 今回は「Evwryday I Have the Blues」「Trouble in Mind」「St.Louis Blues」「I Almost Lost My Mind」の4曲を安威俊輔にウッドベースで加わってもらうことにした。彼にもやはり事前に音資料を渡してやはりペンギンハウス終了後の夜中に録音作業をした。
この作業が始まる前に僕はこんなことを考えていた。「録音するのは全部で4曲、ほとんどシンプルなブルース進行の曲だし安威くんは才能も勘も豊かなプレイヤーだ。すぐに録音は終るだろう。・・・とするとそれが終ってから始発電車が動き出すまでの時間をどうやって過ごそうか・・・。」
ところが僕のその心配は全くの無用だった。午前1時過ぎから録音が始まった。期待したとおり安威くんはちゃんとベースパターンやアレンジを考えてきてくれていた。テストが終り「じゃあ録音してみようか」ということになる。録音が終りプレイバックして聴いてみる。それを真剣な表情で聴いていた彼・・・終るとすかさずこう言う「すみません、もう1回やらせてください」ふたたび最初から録音・・・終る・・・プレイバック・・・「すいません、もう1度」・・・
これが何回も繰り返される。終いには僕が「もうこれでいいんじゃないか」と思えたテイクに関しても「すみません、やっぱりもう1回・・・」と彼は妥協しない。曲によってはテイク5とか6とか何度でもやり直す。その彼を見ていて僕はこの若いベーシストがなぜこの1年ぐらいでめきめき腕を延ばしてきて今では木下徹ほか多くのミュージシャンたちから信頼されるプレイヤーになったのかがよくわかった。 それじゃあ僕も付き合うよ安威くん!
録音作業は延々と続いた。気がつけばもう始発電車の出る時刻などとっくに過ぎていた。
こうしてようやく4曲すべてを録りおえたころには外はすっかり明るくなっていた。お疲れ様のビールで互いをねぎらったあとその日は眠らずに徹夜のまま仕事へ行くという彼を見送った僕は、とても素晴らしい時間を過ごしていたことにその時気がついた。
そしてこう思った。「こりゃあ僕も余程真剣に取り組まなかったらダメだ、安威君の真剣さがちゃんと生きるものにしないと・・・僕もギタリストとして死力を尽くさなきゃ」
そしてこうも思った「今回のこのアルバム・・・きっとすごいものになるぞ!」 と
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高円寺ライブハウス ペンギンハウス