仲田修子話 15 

案内されて入ってみると、中はものすごく広いそれもピカピカに磨き上げられた廊下がずうっと続いており その廊下に面して障子張りの沢山の部屋が並んでいた 建物のあちこちにピンクのサクラの造花が飾られていた 廊下は途中で一旦途切れてそこに赤い太鼓橋が架かっていてその下には水が張られコイが泳いでいた そして雛飾りを見て修子は驚いた

ものすごく大きくて立派な雛壇が圧倒するように飾られていたのだ

なんだか妙にかったるい雰囲気のその家のお母さんからひなあられをもらい、その後修子たちはその建物の中で遊び始めた 何しろ廊下だけでも運動場のように広い こんな素敵な場所は無い・・・そう思ったらなんだか楽しくなってきて二人で「うわーい!」と大声を上げながら廊下を走り回っていた その時だ

突然その廊下に面していた部屋の障子のひとつがガラっと開き、中から上半身裸の大人の男の人がものすごく恐い顔で二人を睨みつけ大声で怒鳴った

「うるせえっ!!」

それでびっくりした二人はしゅんとなって大人しくするしか無かった

「あれはびっくりしたなあ~」と修子は回想する

「まさか人が居るとは思ってなかった」

大人になって知ったのだがその建物は「さがみホテル」かつての「土蔵相模」という名の遊郭だった

そしてあの夜な夜な通りに立って男性客を”拉致”していた女性たちは皆そういうところで働く人たちだったのだ

しかしここはただの遊郭ではなかった 日本の近代史とくに幕末において重要な役割にちょっとばかり足も突っ込んでいた歴史のメモリアルスポットでもあった

昭和32年に1本の映画が公開された タイトルは『幕末太陽傳』(ばくまつたいようでん

若くして亡くなった映画監督 川島雄三の作で時代は江戸時代の幕末、「左平治」という1人の調子のいい町人が品川を舞台に花魁や宿場に関る色々な人や幕府転覆を画策する尊皇攘夷派の武士「高杉晋作」までを巻き込んだドタバタ喜劇だ

この映画は古典落語の「居残り左平治」「品川心中」「お見立て」などのいくつもの噺がベースになっているのだが、そこには幕末のころの品川宿の様子が活き活きと描かれて居る

そして左平治が”居残り”・・・居残りとは遊興費が払えずにそのまま遊郭に居候になって下働きなどをする客のことなのだが・・・をする遊郭が「土蔵相模」なのだ

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

http://penguinhouse.net/how

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