仲田修子話 69

ある晩「アーサーベル」で事件がおきた 修子はその日も店で歌っていて対バンが演奏している間の休憩時間にカウンターに座ってコーラを飲んでいた すると有名な某出版社の雑誌の編集長が何人かの部下を連れて店にやってきていたのだが・・・この男性はけっこうよく来てくれていた常連で、普段は何も問題を起こすような客ではなくむしろ店に来るたびに修子には5千円のチップをくれるような・・・まあ上客だった

ところが、その日はどうしたことか酔っ払って「魔がさした」ということなのか・・・その男は席から立ち上がると修子のところに近付きいきなり後ろから抱きつき、セクハラ行為をしたのだ しかしその男は運が悪かった 普通の女性ならせいぜい「やめてください!」と言うくらいかも知れないが 修子はいきなり立ち上がり振り向くと「何をするんだ!」とものすごい声で怒鳴った 想定外のことに呆然と立ち尽くす男 そしてその相手に向かって間髪を入れず彼の部下たちが見ている中、その男の顔を平手で何発も往復ビンタを食らわした

シーンと静まりかえった店の中に修子が男の頬を打つ音だけが響いた

それをカウンターの中で見ていたチーフバーテンダーが慌てて飛んできて「オサム(これが修子のステージネームだった)やめろ!お客を殴るな 殴るなら俺を殴れ!」と言うので修子はためらうことなくそのチーフの頭も殴りつけたのだ

そう・・・このセクハラ男は知らなかったのだ 子供の頃には従兄弟たちから「クマ」と呼ばれ怖れられていた、そして中学生の時は竹刀を担いで登下校していた少女が今は成長して「グリズリー」となっていたことを

つまりこういうことだ 彼が「ウサギ小屋」だと思って入ったところは実は「クマの檻」だったのだ

アタマにきた修子は店を飛び出し近所の喫茶店でしばし自分を鎮め、その後店に戻り何事も無かったようににこやかに演奏をした あのセクハラ男はもう居なかった そしてその後二度と「アーサーベル」にやってくることは無かった

そんなことがあったにもかかわらずクビになるどころか全く注意もされなかったと修子は語る

とにかくわずか4ヶ月で来店客を倍に増やした修子とそのセクハラ客では、どう見ても修子に軍配が上がるのは当然・・・その店での修子の人気はものすごかったのだ

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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