仲田修子話 96

当時修子がそれだけ稼いでいたおかげで、彼女の母も弟も充分な額の生活費や小遣いを受け取っていた。 特に弟はそのお金をかなりあてにしてたので、ろくにバイトもせずブラブラと暮らしていた。

事務所に入ったことで、修子は定期的に赤坂や六本木などにあるいい場所の条件のいいハコに仕事が途切れず入れるようになった。 自分のトラも事務所が探してくれるので、見つけるのが楽になった。

さらにそれとは逆に誰かのトラで1日とか10日とかでどこかの店に行くこともよくあった。 トラはレギュラーで行く店より高いギャラが出るので、修子にとっては何よりな話だった。

このトラの仕事には色々な思い出がある。 不思議とレギュラーで入ってた店についてはどこも似たような感じで強い印象は残っていないという。

たとえばこんなことがあった。

あるとき銀座にあったその界隈を縄張りにしていたかなり大手の暴力団「T会」そこが銀座に持っていたビル・・・その中の1階にあったクラブに修子は頼まれて1日だけトラで行った。

ギターを抱えてそのビルの通用口のようなところから中に入った。 するとそこには明らかに“その世界の人”と思われる男たちが20人ぐらいずらっと揃っていた。 そこは店のバックヤードだったようで、すごく分厚いカーテンで仕切られた向こう側に店があった。

修子はその中に居たそこのマネージャーらしい人に挨拶をして、そして恐る恐るこう訊いた。

「あの、今日トラで来た者なんですが・・・一体どんな曲をやればいいですか?」

するとその男はいかにも“その世界”の人らしい口調でこう答えた。

「おう、何でもいいけどよ・・・フォークってのだけは歌うなよな!」

ああ、こういう人たちはフォーク嫌いなんだな・・・そう納得した修子は

「ああ、私もフォークは大嫌いですから」そう言って「女の意地」などという演歌系の歌謡曲を主に歌うことにした。

さていよいよ自分が出演する時間になった。 分厚いカーテンをくぐってクラブの店内に入った修子はそこで驚いた。 店にはさっきバックヤードに居た男たちとほぼ同じ人数のホステスがずらーっと居たのだが、その一人一人・・・いや全員がものすごい美女ばかりだったのだ。

多分彼女たちはあのバックヤードの男たちの「女(スケ)」なのだろうなあ・・・そう修子は思った。

ところで「トラ」へのギャラ支払いは「取っ払い」と言って、それを依頼したレギュラーの出演者が自分でその代金を店側に預けておいてトラを請け負った者はそれを直接受け取る・・・通常はそういうシステムになっていた。

仕事が終わりそのギャラを受け取ると修子はもう逃げるようにそこを後にした。

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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