追悼 遠藤賢司(前)

このところ訃報が続いていた FOOLSの伊藤耕が亡くなってつい先日葬儀が行われたかと思ったら、一昨日は亀淵友香、昨日はニューオリンズR&Bを代表するファッツ・ドミノの訃報まで飛び込んできた

しかし、僕が一番ショックを受けたのは「遠藤賢司死去」のニュースだった 今年の春に「加川良」が急性白血病のため亡くなったのもショックだったが、今度はさらにそれより強い

遠藤氏と僕のつながりはそれほど無い 実際に会って話をしたのは1回だけ、生の演奏を観たのも4~5回だけの僕が、偉そうにこういう文を書くのはおこがましい・・・それは百も承知で・・・だけど、どうしても書きたいのは、彼こそが僕のギターに音楽的刺激を一番与えてくれた日本のシンガーだったからだ

その最初の出会いは僕がまだ19歳で浪人してたときだった

確か目黒の杉野講堂で開かれた企画イベント・・・タイトルは忘れたが・・・ウディー・ガスリーのトリビュートコンサートだった そのコンサートの前半はアメリカの監督「ジョン・フォード」が制作した「ジョン・スタインベック」原作の「怒りの葡萄」という映画の上映だった この映画の舞台となったオクラホマはウディーの出身地、自らもその映画の登場人物と同じ体験をした彼はその主人公「トム・ジョード」を歌にしている

そして映画が終り、いよいよウディーを敬愛するさまざまなアーティストが登場した

じつはその頃吉祥寺に住んでいた僕は、同じ吉祥寺で活動していた「高田渡」「シバ」「武蔵野タンポポ団」などというアーティストに興味を持っていて、それが観たくてこのコンサートに出かけたのだ

そして次々に出てくる・・・高田渡・・・スゴいな・・・シバ・・・カッコいいな・・・武蔵野タンポポ団・・・楽しいな・・・などと出てくる演奏者の演奏を楽しんでいた そこへまず最初の衝撃をくれたのが、その時はまだほとんど無名だった「友部正人」トーキングスタイルで歌う「東京にやってきた」を聴いてスゴすぎてハラが立ったほどだった

しかし、さらにそれを上回る演奏者が出てきた

大柄な身体を妙に窮屈そうにステージに置かれたイスの上に沈めると、アコギとハープを鳴らしながら歌いはじめた その演奏を聴いた瞬間、本当に後ろから頭をガーンと殴られたようなショックが僕を襲った それが遠藤賢司だった

それまでの演奏者たちはすべて「フォーク」か「ブルース」だった しかし彼がそこでやってるのは紛れもなく「ロック」だった それもものすごく烈しい・・・当時は「パンク」なんて言葉も概念も無かったのに、この演奏はまさに「パンクロック」だった そして遠藤賢司はステージの上から僕に教えてくれた 「アコギでもロックは出来るんだぜ!」
そのとき演奏したのがこの曲だ

彼の面白いところは、こういう烈しい曲をやったかと思うとそれと真反対の優しい「カレーライス」「寝図美よこれが太平洋だ」なんて曲もやってたことだ

次に彼を見たのがその翌年(?)の大晦日に両国日大講堂で開かれた「日本のフォークとロックコンサート」とかいうタイトルのコンサートだった そのときにはもうシバやタンポポ団のメンバーと付き合いが始まっていた僕はそれを観に行ってたのだが、そのときは日本のフォークとロックを代表するようなアーティストが大集合していて、この話は前にもどこかに書いたのだが、当日・・・「フォーク」と「ロック」がそれぞれ別の楽屋に居てそのロックグループの親玉だった内田裕也が「フォークの連中は生意気だ、シメてやれ!」と号令したらしく、両陣営の中で険悪なムードが漂っていた そのときにフォーク側の楽屋に居た遠藤氏がすごく悲しそうな顔で「こんなのバカバカしいよ!止めなよ!」と怒っていたのをすごくよく覚えている 彼にとっては「フォークvsロック」という垣根自体意味のないものだったのだから

その次に目撃したのはたしかその翌々年73年の春、大阪で開かれた「春一番コンサート」だった(写真は72年のときのもの)

そのときはじつは大変なことが起きていた その前日、九州で演奏していた遠藤氏はそのライブのあとの打ち上げでヤクザに絡まれてなんとボコボコにされ、骨折までしてしまったのだ

ステージ裏では「賢司は今日は来れないみたいだ」「来ても演奏出来ないだろう」・・・という悲観的な話が飛び交っていた しかし、彼はやってきた

体中に包帯を巻いて足にはギプスが付けられていた 顔も殴られて大きなアザが出来ていた その姿で松葉杖をついて彼はステージに上がった そして叫んだ

「オレはこれくらいのことじゃ負けないぜえ~!」

客席からは「ウオーッ!」という怒涛のような歓声が返ってきた そのときの演奏は・・・もう本当に火柱があがっているような凄まじさだった 「この人、やっぱりカッコイイ!」ステージ袖から観ていた僕は思わず叫んだ       (後半に続く)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする