僕の八ヶ岳話 33

職場の環境はそれはヒドいものだったが、それさえ我慢できればまあなんとかやっていけそうだった それより毎日仕事が終り家に戻る時の爽快さに僕は酔いしれていた

4月の末頃になると山の木々が一斉に芽を出し始めた それはなんか「メリメリ」「モリモリ」と音がするんじゃないかというくらいの勢いで、山全体がエネルギーに満ちて膨らんでゆくのを感じた その森の中を抜ける国道・・・窓を全開にすると萌えはじめた木の芽のなんとも気持ちのいい匂いが窓から飛び込んできた

「やっぱりここへ来て良かった!」
そう思っていたのは・・・僕だけだったようだ
家に帰るとかみさんが何か浮かない顔をして僕を迎えた
「どうしたの?」・・・と訊くと「だって・・・」と話し始めた

引越して最初の1ヶ月ほど、彼女は「専業主婦」だった

朝僕を送り出し、洗濯や炊事や掃除など普通の主婦がやる仕事をこなしていた それが不満だったわけではない

「だって、今日一日誰とも顔を合わせてないんだよ 昨日も一昨日も・・・」

かみさんはとにかくお喋りが好きだった それまで東京に居たときも実家の東北に居たときも、周りには常に友人や同僚や親戚などが居て、そういう人々とお喋りをするのが彼女の日常の楽しみだった ところが、ここへ来たらとにかく人が居ない・・・

すぐ目の前には何軒かのペンションがあったが、そこの人たちとの交流はなかった そもそも外を誰かが通るなんてこともほとんどない・・・山の中の一軒家なのだ

このまま放っておいたら確実にかみさんは「東京へ帰る」と言いだすのは目に見えていた

どうしよう・・・

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