僕の八ヶ岳話 76

さてさて、真冬にはもう本当にとてつもなく過酷な八ヶ岳だが、春になるとその環境はがらっと変わる 春・・・と言っても八ヶ岳の野辺山・・・標高1300m以上のこの地の本格的春はもう4月の中旬ぐらいからだ

遅い遅い春・・・それを待ちかねたように野山の植物は一斉に新芽を出す その様子はいつ見ても本当に美しく嬉しくなるのだ 嬉しさをさらに加速させるものがある それは「山菜」

僕の居た職場にやはり僕と同じ清掃会社から設備の管理エンジニアとして派遣させてたNという人が居た 長身ですらりとして穏やかな好人物だった あるときこのNさんが僕にこう言ったのだ
「矢島さん、山菜は採るけ?」
山菜について僕はおぼろげな知識しか無かったので彼に訊ねてみた
「いや、あまりよく知らないのですが・・・」
すると彼はこう答えた
「ありゃりゃ、そりゃ勿体無い!いいけ、このあたりは山菜の宝庫なんだよ」

Nさんに言わせるとこの周囲の山にはそれこそごっそりと山菜があるらしい それも今が一番の”旬”なんだという ちょうど夜勤明けでヒマだった僕はさっそくNさんと一緒に近くの山に入っていった

山に入るとNさんは豹変した それまでの普段の仕事をしているのとは別人のようになる まず山の木々の間を歩くスイードが桁違いに早い 僕は付いて行くのがやっとだった 歩きながら彼は始終あたりを見回している それはちょっと野生の獣のようにも見えた そして

「ほら、あった!」・・・と指差す

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教えられて僕もそのほうを見るのだが、何が何なのか全く解らない すると少し斜面を下った彼は1本のひょろんと真っ直ぐ伸びた1本の細い樹に触ると「これこれ!」と言う

水道管くらいの太さのその樹には鋭いトゲがびっしりと生えていた

そのずうっと先を見上げると・・・一番天辺に緑色の筆先のような芽が出ていた

すると得意そうな顔でNさんがこう言った

「矢島さん これがタラノメだよ!」

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