僕の吉祥寺話 10

「シバが会いたがってる」

その話を妹から聞かされたときは正直驚いた

それまで僕はギターの練習もかなりやっていて腕前にはまあそこそこ自信は持ってたしオリジナルの曲もそこそこ書き溜めていつかはどこかでやりたいな・・・などとは思ってたが、まったくのずぶの素人だったしましてそんな”プロ”としてやっているミュージシャンとは直接会うなんて考えてもみなかったのだ

妹の話では彼女がシバやほかのミュージシャンたちに僕のことを話してくれていたらしい 「うちの兄貴ギター弾いてるよ、けっこう上手いよ」・・・などと

そして向こうからの指定のあったある日の夕方、僕はとうとう「ぐゎらん堂」に行くことになった

そこは吉祥寺の東急デパートの前を西に向かって少し歩き「藤村女学院」のちょっと手前、小さな三階建てのビルのまっすぐな階段を昇りきった3階にあった

なかなか入りづらい雰囲気の場所だったが思いを決して重たい木のテーブルを開いた 僕のぐゎらん堂デビューだ!(笑)

店の中は薄暗くたしか早い時間だったので店内にはあまりお客はいなかったように覚えている その客席のテーブルに見覚えのある小柄で無精ひげの男性が座っていた それがシバだった

「やあ、どうも」「はじめまして」・・・そんな挨拶を交わしてそれから彼は僕にこう言った

「じゃ、ちょっとどこかに飲みにいこうか」

そして二人でぐゎらん堂を出て中央線のガードをくぐり南口に出ると公園通りのすぐ先にある「いせや」に向かった

「いせや」は今では吉祥寺の名所になっていて多くのお客が・・・それも地方からわざわざ訪れるお客も居てすっかり人気スポットになっているが、当時のそこは(今は改築されて当時の雰囲気は残っているが全く別物)ホルモン焼きと焼酎がメインのメニューの安い立ち飲み酒場で、当時はいわゆる「肉労系」か「サラリーマン」それに金のない若者などののたまり場だった(写真上が現在・・・上階はマンションになってる 下;昔は木造2階建て)

今はどうなってるかわからないけどその当時の「いせや」の焼酎はかなりの安物だった 注文すると小ぶりのグラスその下には受け皿がついていて従業員がヤカンのようなものでそのグラスに溢れるぐらいの量の焼酎をついでくれる お客はまずその表面張力で盛り上がった水面に自分の口を近づけて一口飲み、その減ったところへ皿にこぼれたのを継ぎ足しまた一口、そしてその減ったところへ今度はカウンターに置いてある「角ビン」に入ったオレンジ色をした怪しげな液体・・・それは「梅エキス」だとあとで知ったが・・・を”ちょろっ”と継ぎ足して飲む、というのがそこでの「ルール」になっていた

その立ち飲みのカウンターにつかまりながら初対面のこのブルースマンと僕は話をした

今となっては具体的にどんな会話をしたのかは覚えていないが、とにかく音楽特に「ブルース」について熱く語り合ったのは間違いない

別れ際シバがこんなことを言ってくれた

「今度俺のアパートに遊びにおいでよ」

その言葉に甘えて僕が彼のアパートにお邪魔するのにそんなに日数がかからなかったのは、言うまでもない
続く

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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