僕の吉祥寺話 61

その出会いはぐゎらん堂にあった いつものように「白水」これはサントリーホワイトの水割りのこと ぐゎらん堂独自の符丁だが・・・を飲みながらボーッと過ごしていた かかっていたレコードが終わっホワイトたので従業員がレコード室に入り、次のレコードをかけた  いや、確かそれをかけたのは春樹さんだったと思う

JBLの巨大なスピーカーから音が出る・・・その瞬間、僕の身体には電気が走った!
それは1950年代の音楽、安っぽいギターの音に薄っぺらなドラム、よくありがちなバックコーラス、お定まりなアレンジ・・・その年代にはよくあるありきたりな曲調、録音も実にチープだ

ただ、そのボーカルだけが違っていた
なんとも扇情的で薄気味悪い声と歌いかた・・・それをさらに助長するような悪趣味で下品なエコー・・・チェスのシカゴブルースだってもう少し上品なサウンドだった
でも、そのボーカルは悪魔的な力で僕を捕らえた
まるで歌が頭の中で鳴ってるような不思議な状態・・・わけがわからなくなって理性がどこかへ行ってしまった 気が付いたら僕はその歌を聴きながら凄い勢いで踊っていた

一体何が起きたのかよくわからなかったがこれだけはわかった 僕がやりたかったのはこういう音楽だったってこと

エルビス

そのボーカリストのことは知っていた
て言うか誰もが知ってる! その名は「エルビス・プレスリー」

え、意外かな?あれだけ散々黒人ブルースにはまってた僕が白人のロカビリーの無茶苦茶ミーハーなアイドルに心奪われるなんて・・・でもね、エルビスはやっぱりブルースマンだったんだよ、それも超一流のね
その次の日、僕は早速レコード屋に飛んで行って彼のレコードを買ってきた それはエルビスが大手のビクターから初めて出したアルバム、タイトルはまんま「ELVIS PRESLEY」だったプレスリー

なんてまたチープでセンスのないジャケットデザインだ! でも、ターンテーブルに載せて針を置いたら・・・僕の求めてるものがすべてそこにあった サウンドはごくシンプル エルビス自身がかき鳴らすアコースティックギターにスコッティ・ムーアのエレキギター、ビル・ブラックのウッドベース、DJフォンタナのドラム それにピアノが入り、曲によっては男性のコーラスが入るという・・・ホーンもストリングスもない・・・まさにこれが「ロカ・ビリー サウンド」だったわけだ

そのサウンドに乗ってエルビスのあの独特の胸声と頭声を織り交ぜつつ不思議なしゃっくりするような発声で南部なまりむき出しの英語で歌う歌はもう本当に「悪魔」としかいえないような不気味さがあって・・・でも限りなくブルージーでなおかつそのシンプルに叩きつけるようなビートは黒人ブルースの中にもない不思議なサウンドだった

僕はもうこのアルバムの中に収められてた「Blue Suede Shoes」や「I Got A Woman」をどれだけ聴いたことか・・・

そしてしばらくしてからなんとあのブルース専門レーベルP-VINEからエルビスのデビュー当時のサンコレクション「サン・レコード」から出した曲を集めた「サン・コレクション」が発売されたのだ

その中にはもう伝説になっている彼のデビューシングル」「That’s All Right Mama」「Blue Moon in Kentucky」も収録されていた そしてサウンドも後にビクターによって無理やりエコー処理されてしまった曲なども含めすべてまったくのエコー無しのドライサウンド(Blue Moonのほうがそうだ)

ピアノもコーラスもなくてag , eg , wb , ds という実にシンプルで素晴らしいサウンドだった

すっかりこれにはまってしまいもう僕は当時こればかりを聴いていたのだ

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする