さて、昨日の続き
5)St.Louis Blues
このアルバムの中では一番アコースティックスタイルの曲 ここでは「とくにシンプルに素朴に歌うようにした」との修子談 彼女のボーカルの特徴として「ビブラート」をほとんど使わないということがある ボーカルをやってる人ならわかると思うがノンビブラートでのロングトーン・・・つまり声を同じ音階でずうっと伸ばすということだが・・・これはとても難しい(うそだと思うならやってみてほしい)
ここでは地味だがボーカルテクニックのハイレベルなエッセンスが集約されてるのだ
6)Baby What You Want Me to Do
この曲のボーカルに関してだけは仮歌を入れたあとで僕は彼女にちょっとだけ注文をつけさせてもらった 当初の「仮歌」のときの歌い方ではきっちりと整ったフレージングで歌ってたのだが、それだと元々のJimmyn Reed が持ってた南部的なゆるーい感じと違ってしまうので「わざと”かったるく”やる気のないようなルーズな歌い方にしてほしい」と
すると本番には見事にそういう歌い方に仕上げてきてくれた お陰で独特のダウンホームな雰囲気を持った曲に仕上がった 彼女のボーカルに対しての職人的資質が最も光った1曲だ
7)Baby Please Don’t Go
この曲もかなりダウンホームで加えて非常にマニッシュなブルースだ ここで修子は考えられないような低いキーで普通の女性では絶対無理な音域で歌っている 特に「You Know I Love You So・・・」の「So~」のあとの声がぐう~っと下がってゆくフレージングなんか日本の女性シンガーでこれを出来るボーカリストは居ないと思う むこうでも「ティナ・ターナー」ぐらいじゃないと出来ないと思う 結果としてむちゃくちゃマニッシュで迫力のある曲に仕上がった
8)I Almost Lost My Mind
このアルバムのメインテーマと言えるこの曲 この曲は女性シンガーが歌っているのを僕は聞いたことがない この曲ではボーカルが優しさと柔らかさに加えて限りなく包み込みながら聴き手を魂の深淵にまで導くような力を持っている それでいてなんとも物悲しい諦めも感じさせるところも・・・全くブルーノートのないこの曲だからこそ仲田修子というシンガーが真の意味でブルースマンなのだということを実感させてくれる・・・
時には鋭く時にはゆるく時には優しく柔らかく、粋だったかと思うと泥臭く・・・変幻自在なボーカリングによってこのアルバム
「ALMOST LOST MIND」は例を見ないようなブルースの深さと広がりを感じさせてくれるアルバムになった
そして仲田修子はこうも言っている
「このアルバムは私が今まで作った中でも最高のものになった 声のコンディションがベストな状態で歌えた 本当に納得して満足している」と
ちなみにこの録音の翌日、彼女は急性の胃潰瘍になって寝込んだという
どれだけこの録音に集中して緊張感を持って臨んだかがわかるエピソード
仲田修子というシンガーは そういう人なのだ
高円寺ライブハウス ペンギンハウス