仲田修子話 63

「お前ら、ここで何をしてるんだ!」

取り囲んだ大人数のヤクザにそう言われ修子以外のメンバーは全員恐怖で凍りつき何も言えないで居た

しかし、ここでも修子は冷静だった 平然としてその時とっさに浮かんできた言葉を彼らに返した

「私たち、実は売れない役者なんです 今日稽古があってその帰りなんですけど、お金が無いのでこうやってお酒を買ってきてここで飲んで打ち上げをしてるんです」

とデタラメなことを言った するとそれを聞いたヤクザはこんなことを言ってきた

「じゃあ、お前らケンさん 知ってるか?」

すぐにそれが「高倉健」のことを指していると理解した修子はここでまた架空の話を作り上げた

「ええ、健さんのことはよく知ってます 私たち健さんの映画では端役の通行人の役とかでよく出てます 彼は私らみたいな下っ端の役者にも目をかけてくれて、優しくしてくれて社員食堂でご飯なんか食べさせてくれるんですよね」

その話を聞いた相手のヤクザは急に態度を変えた すごく感動したような表情でうんうんと頷きながら

「そうかあ、そうだったのか・・・お前らガンバレよな!」 と励ましてくれ・・・・そしてその場を立ち去った

このいかにも地方から出てきたようなヤクザたち・・・やはり彼らにとっては「高倉健」は大スターなのだなあ・・・と修子はしみじみ思った

ところで、修子のこのケンさんとの話は全くのフィクションだったかというとちょっと違っていて・・・こんなことがあった

それは修子がまだ工場労働をしていた頃なのだが、一度東映の「動画部門」の求人に応募してそれに合格して撮影所で働いたことがあった ただ、その頃修子はまだ精神状態が不安定だったので4~5日働いたところで「辞める」といって辞職してしまったのだが、そのときに1回だけ高倉健を見かけたことがあったという

その時の話がスゴいのだが、ある日修子が撮影所にいるとむこうのかなり遠くのほうで何か光るものがあるので「何だろう?」と思ってそこに近づいてみた

するとその光の発生源が高倉健だったのだ もう眩しくキラキラ光っているように見えた その当時修子は彼のファンでも何でも無かったのだが、それを見て「この人は普通の人じゃない」と思った ちなみにそのときその横に「丹波哲郎」も居たのだが、そちらは少しも光を発していなかったそうだ

ところでさきほどのエピソードを聞いていて筆者はふと思いつくことがあった 前に書いた天井桟敷の話で修子が寺山修司から「自分の台詞は自分で書いてくれ」と言われたことも修子の「物語りを生み出す力」があったからじゃないか・・・それがその後の彼女の曲創りにも生きてるんじゃないかと・・・

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