仲田修子話 84

仲田修子著;ダウンタウンブルース「19」より

二日後、絵理菜さんが修子に小さな紙切れを渡した。それには、「ピアノ、ベース、ドラム、ギター、トランペット×2、トロンボーン、テナーサックス、アルトサックス」、とだけ書いてあった。

「これ、そのバンドの全員なの?」
修子は聞いた。
「うん、それでそのトランペットの一人がバンマスなんだって」
そうか、とにかく作戦がいるな…修子は思った、彼女の歌は素晴しかったけれど、バンドでは絶対歌えない…今まで歌っていた歌を間違った歌い方だ、などと言いたくもなかった。彼女はなかなかプライドが高い人なのだ…残る道はただひとつ。オリジナルを作ろう!彼女のために、彼女に似合う、そしてできるかぎり符割(ふわり)の簡単な曲を作ろう!

修子はその頃ひそかにオリジナル曲を作り始めていた。何のあてもなく…今考えればすごく青くさい、やたらシュールな詞の変な曲ばかりを少しづつ作っていたのだ。
彼女は歌謡ブルースを初めて作ってみた。

「ダウンタウンブルース」と名付けた。

誰でもいいからこの私
連れて逃げてよ
捨てられた女にゃ行くところがない
どしゃぶりの街傘もささずに
ただ歩くだけ
雨よ 雨よ 流してよ
あの人の声 あの人の肌
ここは下町 涙も涸れる
ここは下町 誰も翔べない
ここは下町 ダウンタウンブルース

これがその曲の一番の歌詞だった。曲はできるかぎりフレーズの頭が小節の一拍目にくるようにして、わかりやすく、そのかわり、彼女の得意なブルーノートをいっぱい散りばめてみた。そして彼女500147専用の譜面?を書いてわたした。それには音符の代りに歌詞の間に黒い点を並べたものだった。その黒い丸はたとえば一拍休む所にはひとつ、四拍のばす所には四つ、という風に、最初の頃の自分が苦労したからこそ考え出せたアイデアだった。「この曲はちょっと難しいからね…」
修子はウソをついた、そしてその特製の譜面の読み方をクドクドと説明し、それを見ながら自分が歌うのを聞いて、曲を覚えてくれと言った。

挿入曲;「地下鉄ブギ」2002,7,10 大田区民プラザ大ホールコンサートより

筆者脚注; この話は仲田修子筆の自伝小説「ダウンタウンブルース」をそのまま使わせてもらってます 書かれていることはすべて本当にあったことです 人称を「私」から「修子」または「彼女」「自分」に書き換える以外は一切加筆していません

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