仲田修子話 121

それはブルースだった イントロが始まった ギターはなかなか上手いな・・・そう思いながら聴いていると、彼が歌い始めた 歌はあまり上手くなかったが、その曲の歌詞に修子は驚いた 今まで色々な場所でオリジナルのブルースを歌うシンガーたちと出会ってきた でも、大概のシンガーたちの歌うオリジナル曲は修子から見れば平坦で単純なものだった ところがその青年の歌は

「よそ見してたら うまく丸め込まれ 回転ドアの囚われ人

耳は柱に 両目は取っ手に 気が付きゃ頭から うわばまれ

出て行く入ってく どっちもどっちもさ」

その歌詞はまるで現代詩のようだ・・・修子は思った 今までそんな歌詞でオリジナル曲を作るブルースシンガーに出会ったことがなかった

歌い終わると彼は「どうもありがとうございました」と礼を言い、修子にギターを返しまた自分が居た元の席へ戻った

ライブのあとの打ち上げで修子は来てくれた友人やその日のライブを聴いてくれたお客たちと歓談していた そのときにふと先ほどの若者が目に留まった 一番奥の席に座り独りで誰と喋るわけでもなくぽつんとそこに居る彼は、最初ここへ来たときと同じで明らかに周りからは浮いていてなんだか居場所が無いように見えた

「良かったらここへ来て一緒に飲みませんか?」

修子がそう声をかけると彼はほっとした表情を浮かべ嬉しそうに彼女の許にやってきた そして堰を切ったように話し始めた 聞けばここぐゎらん堂にはよく出演しているという 今日はいきなり修子たちの演奏のあとに図々しいことをやってしまって怒られるんじゃないかとびくびくしていたんだと そして

「仲田さんの歌、本当に素晴らしいです 僕、ブルースをやっててこんなすごい曲作って歌う人に初めて出会って本当に驚きました なんか嬉しいです!」

興奮しながら彼はそう言った

「いや、私もあなたの歌聴いて驚きました 素晴らしかったですよ!」

修子もそう応えそしてこう言った

「良かったら今度私たちのライブにゲストで参加しませんか?今度○○という店でライブがあるんですけど」

「あ、有難うございます 喜んで・・・行かせてもらいます」

「あなた、お名前は?」

「はい ここのマスターのハルキさんに付けてもらったのですが・・・ジミー矢島といいます」

はい、そうなんです これが仲田修子と私筆者の出会いだったのだ

注;写真上 当時のぐゎらん堂の様子 中央ハンチングを被った人物がここのマスターの村瀬春樹氏 写真下 当時のぐゎらん堂での筆者 右に居るのは現在は音楽評論家兼ミュージシャンの「鳥井ガク」

「回転ドア」;仲田修子&ミッドナイトスペシャル 2008年 ペンギンハウスライブ

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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