仲田修子話 138

その「変な」という言葉にピンと来るものを修子は感じた

「すぐその物件を見に行こう 今!」

もうすっかり陽が暮れていたが、車に(その頃すでに有海は免許を取得して安い中古車も手に入れていた)4人で乗り込み、高円寺に向かった

その物件を取り扱ってた不動産屋は高円寺駅北口の「高円寺銀座商店街(注;1)」を突き当たり、クランク状につながってる「庚申通り商店街」に入ってすぐの所、駅から歩いて5分くらいのところにあった いかにも「町の不動産屋」といった感じのなんだかゆるーい雰囲気の店に、これまたいかにも人の良さそうな店長らしき人物が座っていた

矢島が彼に向かって「あの、先ほどお邪魔したものですが、うちのリーダーがぜひあの物件を見たいと言うので連れて来ました」時刻はもうかなり遅かった そろそろ店仕舞いにかかる・・・それくらいの時刻だった

彼は「おやおや」というような顔をしながらも
「はいはい、いいですよ」と、傍らの壁に掛けてある鍵束を持ち立ち上がった

案内されて着いた物件・・・なんとその不動産屋の目と鼻の先、商店街から裏道を入ってすぐのところにそれはあった

確かに矢島の言う通り変な建物だった 地下だというからてっきりビルだと思ったら、そこにはかなり年数の経った木造の2階建ての建物があった

何か水商売・・・飲み屋か何かみたいだった その建物の端に幅の狭いシャッターがあった それをガラガラと開けるとその中に地下へ続くこれまた狭い階段があった もうそれを見ただけでも修子は矢島が言う「変な」という意味がよくわかった

階段が・・・普通では無いのだ まず一段ずつの高さや奥行が全部違うのだ それに加えて階段の面は水平ではなく微妙に左右に傾いている プロには絶対に出来ない仕事だ! そう修子は思った

まるでダリ(注;2)が描いた絵か、ガウディー(注;3)の建築物みたいだった

扉を開けて中に入るとさらに変な光景が目に飛び込んできた かなり長いこと閉めていたらしく、えらく湿ってカビ臭い空間 その広さはせいぜい6〜7坪、その狭い空間になぜか不似合いなほど太いコンクリートの柱がそれも2本建っていた

この奇妙な物件の正体は不動産屋の次の言葉で明らかになった

注;1「高円寺銀座商店街」現在の「高円寺純情商店街」のこと 1989年に直木賞を受賞した「ねじめ正一」の同名の小説から現在の名前に変更された

注;2 「サルバドール・ダリ」現代を代表する抽象画 「記憶の固執」など名作も多いが、一方で奇行の面でもさまざまなエピソードがある

注;3 「アントニオ・ガウディ」 スペインカタロニア地方出身の建築家 独特の曲線を使った建築物は見たものにつよぴインパクトを与える 彼の代表作で設計を手がけた教会「サグラダ・ファミリア」は彼の死後100年近く経った現在もまだ建築中

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