僕の吉祥寺話 67

今思えば・・・それは僕が言い出したのではなかったのかも知れない 当時(まあ今でもだが)僕はとても内気で積極的に誰かに働きかけることが苦手だった

だからあのときももしかすると春樹さんが僕を”そそのかす”というかむしろ彼が声をかけたのかも知れない

演奏が終わった仲田修子に向かって「よかったら一曲やらせてもらってもいいですか?」・・・と Scan0005

なんて厚かましいお願いなんだろう それは大変失礼なことだと、当時の僕でもわかってた

すると彼女はニコッと笑って「ええ、いいですよ」と応えてくれた

僕は自分のギターさえ持ってきてなかったので多分修子か有海のギターを借りたんだと思う そして、その場にはベーシストのMがいた 僕は彼に手伝ってもらい自分のオリジナルのブルース

「回転ドア」を演奏したのだ

♪よそ見してたら うまく丸め込まれ 回転ドアの囚われ人回転ドア

耳は柱に両目は取っ手に 気がつきゃ頭から”うわばまれ”

出て行く入ってく どっちもどっちもさ♪

*この曲は75年ごろ、当時読んだ「回転ドアの男」という短編小説にヒントを得て書いた 歌詞の中で「うわばまれ」というのは当時「ルイス・キャロル」に傾倒していた僕が作った「かばん語」というスタイルの二つの言葉を一緒にしてしまうという「造語」だ

演奏終わると彼女は満面の笑みを浮かべながら拍手をしてくれた

しかし、僕は弾き終わってからなんだかとても失礼なことをしたんじゃないか・・・あまりに図々しかっがらんどうたんじゃないか・・・そんな思いで頭が一杯になり後ろめたさを抱え、店の一番隅っこで小さくなって座っていた ああ、帰っちゃおうかな・・・そう思いながら

すると、店の一番奥でメンバーたちと打ち上げをしていた彼女が僕に声をかけてきたのだ

「あの、よかったらここへきて一緒に飲みませんか?」 ニコニコ笑いながら

その声がまた凛としてとても上品で歯切れのいい感じで僕はおもわずほっとして「ああ、怒ってはいなかったんだ」心の中でそう思いながら彼女たちの席にご一緒させてもらった

そして色々な話をしたのだが、とにかく修子の話しかたとか言葉がとてもすっきりとして知的で話しているととても楽しかったのだ 僕はまず彼女の歌った曲のことを「素晴らしかったです」と感想を述べた

するとそれに返すように「いや、あなたのオリジナルの曲素晴らしかった!」と彼女は僕の「回転ドア」のとくに歌詞が素晴らしかったこと・・・それをすごく具体的にまるで分析をするみたいに、今までほかの誰も言ってくれなかった僕の歌詞の中にある「現代詩的」な部分にまで触れて絶賛してくれたのだ

それまで僕はずいぶん沢山の曲と詞を書いてきたが、歌詞についえはっきりと「これはいい」というような評価をもらったことがほとんどなかったのでこれは驚くと同時にとても嬉しかった

それに仲田修子のオリジナルの歌詞も決して難しい言葉など使ってないしすごくシンプルなのに、深くてそしてすごく伝わってくる・・・こういうソングライターには今まで出会ったことがなかった

僕の「詩人」としてのアンテナが久しぶりにむくむくと立ち上がるのを感じた

その日はなんだかすごく嬉しくなってずいぶん遅くまで色々な話で盛り上がってしまった

やがて、そろそろ電車が終わりそうなので・・・と席を立ちながら彼女が僕にこんなことを言ってくれた

「よかったら今度一緒にライブに出ませんか?」

もちろんそんなありがたい話はない 「はい!」 僕はすぐに答えた

彼らが帰った後・・・ふと自分が座ってた席を見た そこには所在なげに僕の図面ケースが転がっズメンていた

高円寺ライブハウス ペンギンハウス

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